賃料滞納による契約解除。従来の運用は。
民法上、賃貸人が賃貸借契約を解除するためには、賃借人による債務不履行に加え、当該債務不履行により賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されることが必要であるとされています。もっとも、賃料の支払いは賃貸借契約の本質的義務であるため、従来の裁判実務では、3か月分程度の滞納があれば信頼関係の破壊があるものとして賃貸人からの解除を認めてきました。
新型コロナウイルスが原因の場合、信頼関係破壊が認められるのか。
それでは、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置(以下「緊急事態宣言等」といいます。)によって減収となり、テナントの賃料の支払が出来なくなった場合であっても、信頼関係の破壊は認められるのでしょうか。この点、上述した信頼関係の破壊の有無は、債務不履行の程度や解除の意思表示に至るまでの事情等を考慮した上で判断されます。したがって、例えば、賃借人が賃料全額とはいかなくとも一部でも支払っていることなどの事情があれば、3か月の滞納があるからといって直ちに解除が認められるとは限らなくなってきます。
緊急事態宣言等による減収は、賃借人にとってもやむを得なかったという側面があります。新型コロナウイルスを原因とする賃料不払い事案の裁判例の蓄積は多くありませんが、例えば、東京地方裁判所令和2年10月15日判決は、新型コロナウイルスを原因とする収入減に起因した賃料不払いについて「汲むべき事情がないとはいえない」と言及しました。今後、緊急事態宣言等による賃料不払いの事案は増加していくものと思われますが、従来のように、3か月程度の滞納があれば直ちに信頼関係破壊が認められるとは限らなくなってくると予想されます。
現実的な対応が必要
上述のように、今後しばらくは、賃料の滞納があればすぐに解除ができるという状況ではなくなるでしょう。一方で、貸主にとっても、賃料収入がなくなることは自身の経済生活にとって命取りになりかねません。貸主としては、解除が簡単には認められない可能性があることを念頭に、賃料の減額や、支払期限の猶予等、柔軟な解決を模索していくことが必要です。もちろん、借主としても、賃料の支払いが賃貸借契約の本質的な義務であることに鑑みれば、賃料を半年支払わなくとも救済されるという事態になることは想定し難いところです。不本意に解除されるという事態を防ぐためには、出来る範囲で一部の支払いを行ったり、支払計画を作成して期間の猶予を依頼したりする等の対応を考える必要があります。
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