1 はじめに
今回のコロナウイルス感染症にかかる一連の経済的な影響は、不動産分野においても「契約解除」「契約トラブル」などの発生につながるといわれています。つまり、それまでの賃貸借契約が、緊急事態宣言やそれに伴う自粛により、収入が減った人々・事業所が、契約通りの支払いができなくなる恐れがあるからです。
一般的に貸借契約が終了する場合、賃貸人と賃借人は賃貸借契約を清算することになります。賃貸借契約の清算をする際,賃貸人と賃借人の利害が衝突しますので、そこでトラブルが発生します。また、賃貸借契約を継続している場合も賃貸人と賃借人との利害が衝突することも多く、様々な契約上のトラブルが発生します。そこで,このページでは、一般的な賃貸借契約に関する主なトラブルの概要について説明をしたいと思います。
2 契約解除に関するトラブル
(1)立ち退きに関するトラブル
契約解除に関するトラブルとして最も多いのは賃借人の立ち退きに関するものです。多くの場合、賃貸人による契約の解除が有効であるかといった問題に集約されることが多いです。
普通借家契約の場合、賃貸人が賃借人の債務不履行(契約違反)を理由として契約を解除する際には、債務不履行に加えて賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されているという事情が必要となります。
ここでいう「信頼関係の破壊」とは、例えば半年程度の賃料滞納があれば、当該賃料の滞納のみをもって信頼関係の破壊といえます。しかしながら、2か月程度の賃料滞納の場合にはその他の事情(過去の債務不履行の状況等)も踏まえて総合的に判断されます。今回のコロナウイルスの影響による一時的な支払いの遅延等について、信頼関係の破壊とされるかどうかは、考慮さえる可能性もあります。
次に、一般的な契約解除についてです。
(2)敷金・原状回復に関するトラブル
賃貸借契約を解約し、賃貸物件の明け渡しが完了した後,賃借人が賃貸人に預けた敷金から原状回復費用を控除して,その残額を賃貸人が賃借人に返還することになります。原状回復費用の方が敷金よりも多い場合や敷金から滞納賃料等を控除して原状回復費用を控除しきれない場合などは,不足分について,賃貸人が賃借人に請求します。
賃借人が賃貸人に対して請求する場合,原状回復費用が高額過ぎるので,敷金を返還してほしいといったものが多く,賃貸人が賃借人に対して請求する場合,使用方法が悪すぎて原状回復費用が多額になったので,敷金で賄いきれない差額分を支払ってほしいといったものが多いです。
3 契約継続中のトラブル
(1)賃料滞納
契約継続中のトラブルの中で最も多いのは賃料の滞納です。
賃貸人からすれば、賃料が滞納されると収入が途絶えてしまうので死活問題です。賃借人相手に任意の回収方法で回収するのか、裁判所を通じて回収するのかは状況に応じて判断しなければなりません。
ただし近年は、賃貸人と保証会社との間で賃料の保証契約を締結することも多くなっています。賃借人が賃料を滞納した場合に、契約上の要件を満たせば、保証会社から滞納賃料分を支払ってもらうことができます。その場合、賃貸人としては今後も賃借人が賃料を滞納するのかを見極めながら、賃貸借契約を継続していくのか賃貸借契約を解除して立ち退いてもらうのかを判断することになります。
(2)賃料の増減額
賃貸借契約において、最も重要な契約内容は賃料です。賃貸人からすれば賃料が高ければ高いほどいいですし、賃借人からすれば賃料が安ければ安いほどいいです。
当初の賃貸借契約で定めた賃料は未来永劫固定されるわけではなく、事情の変更があれば賃料を変更することができます。借地借家法は、土地・建物の公租公課の増減や土地・建物の価額の変動その他の経済情勢の変動、近傍同種の建物の賃料との比較といったことを賃料の増減額の事情として挙げています。
例えば、建物が経年劣化によって価値が下がっているのであれば、それ相応に賃料を減額できるということになります。それに対し、土地を賃借している場合に土地の価値が上がっているのであれば、それ相応に賃料を増額することができるということになります。こうした賃貸借契約の更新の際に賃貸人が賃料を増額する場合、トラブルになることが多いです。
(3)無断転貸
賃貸借契約は、長期にわたって契約が継続することから、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を基礎に成り立っています。つまり、賃貸人としては賃借人を信用できる人と評価するからこそ、賃貸借契約を締結したといえます。
にもかかわらず、賃貸人の承諾を得ることなく賃借人が第三者に転貸することは、賃貸人に対する“背信的行為”といえます。民法612条も賃貸人の承諾を得ない無断転貸を禁止しています。無断転貸があった場合には信頼関係の破壊があったといえますし、賃貸人は原則として賃貸借契約を解除することができます。ただし、鎮弱人が親族などに転賃していた場合など、背信的行為とまではいえない事情がある場合には、信頼関係が破壊されていないと評価されて賃貸借契約の解除ができない場合があります。
なお、無断転貸とまではいえず、賃借人と一緒に居住しているような場合においても、賃貸借契約上、居住者や居住人数の限定等がある場合には同様の問題が生じます。
(4)無断増改築
多くの賃貸借契約書では、賃貸物件の増改築を禁止し、増改築する場合には賃貸人の承諾を得るように規定しています。また、増改築に至らない模様替えといった事項も賃貸人の承諾を得るように規定している賃貸借契約書も多いです。
しかしながら、中には、賃貸人の承諾を得ずに増築をして床面積を増やしたり、和室を洋室に変更したりすることがあります。無断増改築禁止特約違反については、賃貸人から賃借人に対する賃貸借契約の解除や立ち退きにつながることが多いですが、賃借人の増改築禁止特約違反の程度がそれほど著しくないものであれば、直ちに信頼関係の破壊とまではいえないこともあります。
(5)賃貸物件の一部滅失による賃料の減額
民法では、賃貸物件が一部使えなくなった場合において賃料を減額する旨の規定を置いています。2020年4月1日に施行された民法では,賃貸物件の一部が使えなくなった場合、請求を待たずに使えなくなった程度に応じて当然に賃料が減額されるという規定を設けています。なお、2020年3月末日までの民法では、賃貸物件の一部が使えなくなったことに加え、賃借人が賃貸人に対して、賃料減額の請求をしなければ賃料は減額しませんでした。
上記のとおり、2020年4月1日に施行された民法によって、賃借人の請求を要せずに賃料の当然減額となったことから、今後トラブルが増えることが予想されます。また、このトラブルは賃貸人による修繕義務と合わせてトラブルになることがあります。
4 まとめ
以上のとおり、いかなる場合にも賃貸借契約を巡っては様々なトラブルが発生します。今回のコロナ禍の影響を受けて、こうしたトラブルは増加することが予想されます。中には賃貸人と賃借人との直接の賃貸借契約の問題とならないこともありますが、騒音や近隣トラブルなどが発生することもあり、賃貸人も対応しなければならないこともあります。
様々なトラブルに対応する場合、まだトラブルが小さいうちに弁護士に相談しておけば、解決が早期に、かつ、スムーズになる可能性が高まりますので、お気軽にご相談ください。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所
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