国際訴訟競合について解説

国際訴訟競合とは

同一の事件について、同一の当事者間で、わが国と外国とで重複して訴訟が提起されることがあります。当然のことながら、国によって適用される法律や裁判制度は様々です。そのため、同じ事件でありがなら、外国の裁判所とわが国の裁判所とで異なる内容の判決が出され、両者が矛盾、抵触するという困った状況になることがあります。

例えば、米国に拠点を有するA社が日本に拠点を有するB社に対し、米国で損害賠償請求訴訟を提起し、勝訴したとします。これに対し、B社がA社に対し、損害賠償債務の不存在確認訴訟を日本で提起し、勝訴したとします。そうすると、同一内容の事件について、米国ではA社勝訴・B社敗訴、日本ではA社敗訴・B社勝訴という全く逆の判決が併存することになってしまいます。  

このような事態をどのように解決、処理していくのかについては明文のルールがなく、いわゆる「国際訴訟競合」として問題になります。

国際訴訟競合をめぐるこれまでの見解と立法化の見送り

国際訴訟競合が生じた場合の解決策については、明文のルールがないだけに、これまで様々な見解や学説が主張されてきました。しかし、どれも一長一短であって決め手に欠け、通説には至っていません。

そのような中で、平成8年、平成23年の民事訴訟法の改正に際しては、国際訴訟競合の問題の立法的解決が議論されましたが、結局、立法化には至りませんでした。

立法化が見送られた大きな理由としては、実際に競合訴訟が係属している国によって法律や手続の在り方が異なる中で、様々な国を想定して一般的に通用しうる明文の規定を設けることは、現実問題として極めて困難であったということが挙げられます。

ユニバーサルエンターテイメント事件(最判平成28年3月10日)

国際訴訟競合に関し立法化が見送られた後、最高裁判所は平成28年3月10日の判決において、民事訴訟法3条の9の「特別の事情」の解釈として、外国訴訟係属を考慮するという立場を示しました。

民事訴訟法3条の9は、「裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合・・・においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。」と定め、日本の裁判所が審理及び裁判をすることができる訴訟事件であっても、「特別の事情」がある場合には、その訴えの全部又は一部について、裁判所の裁量で審理をせずに却下することができる、としています。

上記最高裁判所判決は、米国法人が日本法人に対して米国で訴訟提起した後に、日本法人が米国法人に対し日本で訴訟を提起したことで国際訴訟競合が生じた事案について、主要な争点に関する証拠が主に米国にあること、当該紛争については米国での解決が当事者の予測に合致するものであること、米国での訴訟が当事者に過大な負担を強いるものではないこと、証拠調べを日本で実施することは米国法人に過大な負担を課すものであること等の事情を考慮し、後に提起された日本での訴訟には、民事訴訟法3条の9にいう「特別の事情」があるとして、訴えを却下した原審の判断を維持しました。

前記のとおり、国際訴訟競合の問題の立法的解決は見送られましたが、今後は最高裁判所が示したように、民事訴訟法3条の9にいう「特別の事情」の有無を一つの指針にすることにより、個別の事情に応じた解決を図ることになるものと考えられます。

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