1 定期借家契約
定期借家契約は、更新のない賃貸借契約で、期間が満了すれば、賃借人は賃借物件から出ていかなければなりません。賃貸人からすれば非常に効力の強い賃貸借契約となりますし、賃借人からすれば不利と評価できるような賃貸借契約となります。例えば、都心のオフィスビルや飲食店、住居でも老朽化した住居(建替え予定の建物)や一時的な転勤(転勤後に戻ってくる予定の場合など)の際に利用されます。
上記のような強い効力を持つ賃貸借契約であることから、借地借家法は定期借家契約の要件を厳格に定めています。まずは、定期借家契約に係る借地借家法第38条の条文を見てみましょう。
(定期建物賃貸借)
- 第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
- 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は公契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
- 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
- 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六ヶ月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六ヶ月を経過した後は、この限りでない。
- 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一ヶ月を経過することによって終了する。
- 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
- 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。
2 定期借家契約の要件
借地借家法第38条から読み取れる、定期借家の要件は、以下の4つです。
- 書面によって契約をすること
- 契約の期間を定めること
- 契約の更新がないこと
- 賃貸人が賃借人に対して契約の更新がないことを書面で説明すること
一つずつ説明します。
まず、書面によって契約するというのは、簡単に言えば、賃貸借契約書を作成するということです。条文上は「公正証書による等書面」と記載されています。ちなみに、公正証書で賃貸借契約書を作成する必要はありません。
次に、契約の期間を定めることというのは、通常の賃貸借契約書でも定めているとおり、賃貸借契約の始期と終期、つまり、例えば、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの2年間といった形で定めるということを意味します。
契約の更新がないことというのは、賃貸借契約書に更新がない旨の条項を入れておくという意味です。タイトルにも記載しておくと分かりやすいかと思います。たまに、賃貸借契約の更新が前提となっているかのような定期借家契約の賃貸借契約書を見ることがありますが、そのような賃貸借契約書では定期借家契約とはなりません。
最後に、賃貸人が賃借人に対して契約の更新がないことを書面で説明することというのは、実務的には重要です。あくまで賃貸人が説明しなければならず、間に入っている仲介業者が説明しただけでは足りません。ただし、仲介業者が賃貸人の代理人として賃借人に説明した場合には、この要件を満たします。さらに、書面で説明するということも重要です。口頭で説明したというだけでは、要件は満たしません。
3 定期借家契約の要件を満たさない場合には普通借家契約になる
上記1~4の要件を満たさない場合、定期借家契約とはならず、その場合は普通借家契約となります。つまり、更新を前提とする賃貸借契約となり、期間が満了して更なる賃貸借契約の合意をしなかったとしても、法定更新(法律上、賃貸借契約が更新されることです。賃貸借契約の条件は以前の賃貸借契約と同一となります。)となり、賃貸借契約が継続していくこととなります。
特に、2回目以降の定期借家契約には要注意です。定期借家契約には更新がないので、期間が満了する毎に新しい定期借家契約を締結する必要があります。実務的に見ていると、最初の定期借家契約ではきちんと要件を満たしているものの、2回目以降の定期借家契約においては要件の一部を満たしていないということがあります。そのような場合、上記のとおり、定期借家契約ではなく普通借家契約となってしまいます。
4 まとめ
以上のとおり、定期借家契約の要件を見てきました。定期借家契約の要件は、①~④と厳格に定められており、要件の一部でも満たさないと普通借家契約となってしまうので、十分に注意してください。