債権回収の基礎知識
売掛金が返ってこない、商品代金を回収したいなど、近年の経済状況下において、経営者の方々から多くのご相談をいただいています。相手方が「お金がないから払いたくても払えない」と言われる場合や、長期間に渡る返済許可を求められるなど、様々なケースがあります。
売掛金の回収ができないのでは、自社の経営にも甚大な影響を及ぼしかねません。様々な回収方法がありますので、まずは以下をご覧ください。
債権回収の流れ
電話で督促
最初のステップとしては、電話による直接交渉での債権回収です。電話で話し合いがまとまれば、その内容を借用書・債務承諾書などの書面に残しておきましょう。
内容証明郵便
内容証明郵便とは、①いつ、②誰から誰宛に、③どのような内容の文書が郵便されたかを郵便局が証明してくれるものです。法的な効力はありませんが、重要な意思表示や通知の証拠を残したい場合に有効です。相手への通告となりプレッシャーを与えることができます。
支払督促
支払督促とは、債務者に金銭の支払を裁判所により命じてもらうものです。支払督促では、金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的としなければなりません。
■メリット
訴訟よりも費用が安く、手続きが簡単であり、早期解決が見込めます。また、相手から異議申し立てがない場合には、仮執行宣言が付与されるため、強制執行できます。
■デメリット
相手に異議を申し立てられた場合には、通常訴訟に移行するため、解決までにお金も時間もかかってしまいます。
民事調停
支払督促まで実施したにもかかわらず解決しない場合には、民事調停へと進みます。民事調停とは、裁判所で裁判官と調停員、当事者が話し合いで解決を目指すものです。民事調停には強制力はありませんので、話し合いでまとまらなかった場合には、訴訟へ移行することになります。
即決和解
訴訟を起こす前に、当事者間で話し合いがまとまっている場合に、簡易裁判所に対して和解の申し立てをすることを言います。裁判所にて和解調書を作成することにより、強制執行のための債務名義を得ることができます。
少額訴訟
少額訴訟とは、簡易裁判所において、60万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする裁判のことをいいます。
■メリット
判決まで1日で済み、強制執行も可能な点です。
■デメリット
- 少額訴訟の利用回数が年10回までと制限されている。
- 相手方が拒否すると、訴訟に移行してしまう。
- また、証拠は即時に取り調べることができる証拠に限定される。
訴訟手続き
訴訟手続きは債権回収の最終手段と言えます。訴えを提起し、相手方と争うことになります。
■メリット
- 裁判で勝訴した場合、勝訴判決によって強制執行手続きに進むことができる。
- 債権の存在が確認された場合、消滅時効は判決が確定してから10年となる。
■デメリット
- 他の未収金回収手段と比べると、時間と費用がかかる。
仮差押・仮処分
仮差押とは金銭の支払いを目的とする債権について、強制執行することができなくなる恐れがある時に、財産を差し押さえる手続きのことを言います。仮処分とは、債権者が権利を実行できなくなる恐れがあるときに、財産を保護する命令(保全命令)を言います。
ただし、仮差押・仮処分手続きをしたとしても、仮に取引先が倒産してしまった場合は、誰よりも早く相手方に駆けつけなければなりません。相手に収めてある商品を、他の債権者が来て持っていかれないよう早く引き上げる必要があります。しかし、例え納品したものであっても、相手に占有権があるので、無断で持ち出すことは違法となり、住居侵入罪や窃盗罪の犯罪となってしまいます。相手から返品承諾書を得て、引き上げなければなりません。
また仮差押えをしたからといって、必ずしも全額回収できるわけではありませんが、仮差押え手続きをしていない場合、相手が財産を処分してしまった時や、一部の債権者に財産を処分してしまった時に、こちらの打つ手がなくなってしまう恐れがありますので、注意しましょう。
債権回収を弁護士に依頼する理由
(1)交渉が有利になる
代理人として弁護士が、債務者に内容証明郵便を送付するだけで、債務者が弁済(金銭の支払、物の引渡しなど)に応じるケースも数多くあります。弁護士が代理人につくことで、請求に応じない場合はより強力な法的手段が講じられてしまう、との心理的プレッシャーが債務者に働くためと考えられます。
取引先が倒産する場合、債権回収は時間との勝負になります。交渉段階でできる限り早く回収しなければ、他の債権者に債務者の財産を持って行かれてしまうことも十分にあり得ますので、弁護士に委任して迅速に交渉を進めましょう。
(2)適切な法的手続がとれる
債権回収の方法は様々であり、全てのケースにおいて通用するベストの方法はありません。したがって、ケースごとに最良の手段を模索することになります。例えば、内容証明を相手方に送るだけでも、そのことが原因となって今後の取引が途絶えてしまう可能性があります。この場合、訴訟も視野に入れ検討する必要があります。
弁護士に相談したのならば、どの方法がもっとも適切なのかという判断が可能となり、適切な法的手続を採ることが可能になります。
(3)訴訟を提起し、強制執行ができる
内容証明の送付、民事調停の申し立て、支払督促の申し立てを行ったにも関らず、債権回収できなかった場合、最終的には訴訟を提起することになります。
訴訟には、高度の専門性が必要となります。有利な証拠を収集し、整理した上で当方の主張を説得的に行うための書面を作成する、といったことは大変な手間がかかる作業であり、専門家に依頼した方が安心かつスピーディーに対応できます。また、訴訟で勝訴した後は、強制執行手続をしなければならず、これもまた煩雑になっております。弁護士に依頼することで、訴訟・強制執行を適切に遂行し、債権回収を図ることができます。
(4)弁護士と、司法書士・行政書士の違い
内容証明郵便の作成等、債権回収を司法書士や行政書士に依頼する方法もあります。しかし司法書士や行政書士は、元々民事・商事のみならず刑事法まで含めたトータルな法的サポートを行うことを予定した資格ではないため、法的知識の正確性・豊富さの点で疑問がない訳ではありません。
また、内容証明郵便を送付した後の相手方との交渉については、簡易裁判所における代理権を有しない司法書士及び全ての行政書士は、弁護士法72条に抵触するため、原則として行うことができません。このため、せっかく送った筈の内容証明郵便も、いわば「送りっぱなし」になってしまう恐れがあります。より確かな解決のためにも、弁護士に依頼されることをおすすめします。